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1、ロクデナシだらけの襲名式


 俺はここ最近ずっと思っていたことがある。
 この家に来てから、ろくなことがないのは何故だろう、と。
 多分、ロクデナシの人が多すぎるせいだ。
 例えば、「コレ」を用意した人間とか。
「どー考えても、俺の着る服じゃないよな、コレ」
「仕方ないだろ。涼一が『姐さん』なんて服屋に言っちまったから、本当に女物用意されたんだ」
 またあの男かよッッ!
 俺は怒りに震える手で、薄桃色の生地に銀の糸で見事な鳥が縫いこまれている打ち掛け(っていう、着物の上に重ね着するものらしい)を握り締め、今頃どこかでほくそえんでいるであろう依岡涼一を呪った。
 この家には二人の居候(俺も含めると三人だけど)がいる。数年前、宮村がひょんなことから路頭に迷っていた依岡涼一とその弟である涼二を拾い、今までずっと宮村と一緒に暮らしていた。
 また、というからには、「ろくでもない前科」がある依岡兄は、俺をからかって遊ぶことに関して、宮村と張るくらい……もしかしたらそれ以上に性質が悪いかもしれない。
 じゃなきゃ、女物の着物一式を男の俺に用意するなんてことは普通しない。
 ところで、何のためにそんなものがあるかというと。
 これから二時間後に控えた襲名式と大宴会のためだった。
 襲名式用の服も、黒地に金糸で縁取りされた白い椿の刺繍が入っている振袖という着物で、もちろんといえばもちろん、女物。唯一の救いといえば、あまり派手な柄じゃないってところだけ。
 俺は今までそんな和装の式に参加したことなんてないから、一式揃えてもらうことになった。それはまだいい。頼んだヤツが悪かったんだ。
 しかも既に集まり始めている強面の宮村組の幹部クラスの男は全員が真っ黒スーツ。
 和装しているのは、俺と宮村と宮村の親父さんで現組長の剛さんくらいだ。
 まぁ、今日正式に組長になる宮村の伴侶(?)として、きっちりばっちりキメなきゃいけないっていうのはわかるとして……。
 いくら「姐」の身分でも、俺はれっきとした男で、依岡兄もそれは十分承知しているはずだ。
 俺だって、依岡兄のろくでもない性格は多少なりとも認識させられている。でも、さすがに組の重要な儀式にまでそんなことをするような非常識人間だとは思ってなかった。
 信じた俺がバカだったーッ!
「今更変えろっつっても、不可能だしな。俺の持ってるヤツじゃ、お前にはでかすぎるから無理だ。諦めろ」
「……って、言う割には、何か楽しそうなんですけど〜」
 可愛らしい打ち掛けから目を離し、ジロリと頭一つ分下から宮村を睨み上げる。案の定、やけに機嫌よさそうな笑みが浮かんでいた。
「いや……十分、似合いそうだと思ってな」
「こんなモン似合ってたまるかッ」
 打ち掛けごと宮村に向かって右ストレートを繰り出すが、逆に腕を掴まれて引っ張られ、バランスを崩した俺はそのまま宮村に抱きこまれる形になった。
「まぁそう怒るなって。そのうち高血圧になるぞ」
「誰が血圧上げてんだよ、誰が。っつーか放せ。制服取ってくるから」
 学生の正装は制服って大体相場が決まってるんだ。用意してもらった高級な着物に比べたら不釣合いで地味かもしれないけど、女物を着せられるよりよっぽどマシってもんだ。  ジタバタと意味もなくもがく俺に、宮村はさらに追い討ちをかける。
「それ、着ろよ。制服なんかで出てみろ。どこのガキだっつって余計なイザコザになるだろ。まだ俺の恋人だって全員が知ってるわけじゃねぇんだから」
 じゃあ何か、男が女物の着物で正装して、何も言われないっつーのかよ。
 俺の声なき抗議は、何故か宮村にしっかり届いていたらしく、ニヤリとムカつく笑みを浮かべて宮村は言った。
「心配するな。お前はその辺の下手な女より可愛いから」
「ふざけ……って、オイ、勝手に脱がせようとすんじゃねー、この野郎!」
 穿いていたジーンズのボタンに手をかけられたかと思うと、一気にチャックを下ろされて、思わず怒鳴る。
「……声、煩いぞ」
「てめーが変なことすっ……んん!」
 塞いでやるとばかりに強引なベロチューをかまされた。
「んぅ……っ、ふ……んん」
 あーこれはヤバイ。マジでマズイ。
 宮村のキスってどうも俺には気持ちがよすぎる。だから、すぐに何も考えられなくなるから、こういうときは速やかに離れないといけないことを、ここ一ヶ月で十分すぎるほど学習した。
 抗いがたい快楽でも、時と場合を考えるのが一般的な常識というものだし。
 と、思って、俺の口の中で縦横無尽に動き回る肉厚の舌を思いっきり噛んだのと同時に、いきなり部屋のドアが開いた。
「……ったッ!」
「……わぁっ!?」
「―――あ、と……ごめんなさい」
 舌を噛まれて小さく悲鳴を上げる宮村と、突然のことで思わず叫ぶ俺に謝ってドアを閉めようとしたのは依岡兄弟の片割れ・涼二だった。
「いや、謝らなくていいっ。つうかナイスタイミング。むしろここにいてくれ!」
 そしてこいつを監視しろ、頼むから!
 俺は宮村を目いっぱい突き飛ばして(つっても後ろにちょっと下がっただけだった)、依岡弟を追いかけた。
 すると遠慮がちにドアが開き、すっと依岡弟は顔を覗かせた。
「二人とも、そろそろ着替えた方がいいですよ。あと剛さんがジン兄のこと呼んでました。俺は理人くんの着付けの手伝いに来ました」
 どうして女物の着物の着付けができるのかって……多分訊いちゃいけないんだろうな。絶対、依岡兄が原因だろうし。
 そんなことをぼんやり考えながら、黒の振袖を手に「どうかした? 早く服を脱いでくれないと着付けできないよ」と当たり前のように言う依岡弟を見て、思わず溜め息を洩らした。
「大丈夫だよ。兄さんは見立てるのがすごく上手いし、きっと理人くんにピッタリだから。その打ち掛けも、白い肌に映えると思うよ」
「はぁ……さいですか」
「ちゃんと着付けますから、そんな嫉妬心に溢れたガン飛ばししてないで、ジン兄は隣の部屋で着替えてください」
「はいはい。理人、これ以上ダダ捏ねるなよ。時間ないんだ、それ着とけ」
 言うだけいって、宮村は隣の部屋へ行ってしまった。
 だから、この家の住人はどこか絶対におかしい。こう、一般的な常識とかモラルとかとにかく普通の人の神経が全く通じないんだもんな。
 しかも白い肌って、何?
「白い肌って……依岡弟は雪みたいに白いから当然の賛辞だと思うけど、俺に向かってそれはないんじゃねぇの?」
「どうして? 理人くん、十分綺麗な色してるよ。俺は病的ってたまに言われるから、健康的に見える方が羨ましい」
 そんなどうでもいいことを気にする前に、肌が白いだの綺麗だの羨ましいだの、向ける言葉の異常さにまず気付いて欲しい。しかもお世辞とか裏のある物言いじゃなくて、本心からそう思ってるような言い方だから余計に突っ込みづらい。
 宮村に連れてこられてばかりの頃と比べると、依岡弟とは大分喋るようになったけど、やっぱり兄弟と言うべきなのか、それとも兄と宮村に毒されたのか、どこか言動に違和感がある。
「依岡弟って、女が気にするような事気にする人だな」
 Tシャツを脱ぎながら悪気なく言うと、依岡弟は困ったような顔をして否定した。
「あ、別に綺麗になりたいとかそういうわけじゃなくてさ。それで兄さんによく心配かけるから、病気じゃないんならもっと血色がよくならないと、兄さんに悪いと思って」
 常に心配をかけている自分が情けないから、と言って、依岡弟は少し表情が暗くなった。俺は自分の失言に気付いて慌てて謝る。
「え、とゴメン。俺、無神経なこと言った」
 自分の最愛の相手(あに)に、いつまでも心配されっぱなしで逆に負担になってしまうことを依岡弟は過剰に意識していた。
「気にしないでいいよ。それより早く着付けを済ませよう」
 そう言って上半身裸の俺に、依岡弟はさっそく一番下に着る薄めの着物の袖を腕に通して、慣れた手つきで着付けを進めていく。
 過去、この兄弟に何があったのか。俺は二人の両親が死んで、孤児院にいたけど逃げ出したってことくらいしか知らない。あとは、依岡兄弟の唯一の親戚(つっても、もう縁切れてるけど)が胸くそ悪いヤクザだってことだけだ。
 多分、自分よりもか弱くて幼い弟を兄は必死で守ってきたんだと思う。だから、こうして命の危険にも晒されることもなく平和に暮らせている今になってまで、心配をかけたくないんだろうな。
 俺と宮村みたいに、日々攻防戦を繰り広げる関係と違って、本当に素直にお互いを思いやっている関係だから、たとえ男同士でも、血の繋がった兄弟でも、二人のことは応援してやりたいと思い始めていた。
 最初の頃は、いきなりデバガメしたせいもあって中々受け入れられなかったけど、慣れってのは本当に怖い。
 今じゃ息子の同性愛を容認している剛さんと、見方も考え方も変わらなくなってきた。というか、考えててもしょうがないっていう諦めと楽観視っていう「逃げ」なんだけど。
 自分も同性愛者に成り行きでなっちまってるんだし、考えるだけバカなんだよな、きっと。
 成り行き……と、いうか。
 あの時俺がバイクの鍵を忘れていかなければ、間違えて宮村のバイクに乗らなければ……俺は不本意な格好もさせられず、今頃、何も知らないで学校の授業に出ていたはずだ。
 定期テスト明けのあの日、親友の大林拓海とストレス発散のためのカラオケ、という大義名分の下行われたどんちゃん騒ぎに付き合わされた俺は、門限代わりの兄貴からの電話に出なきゃいけないと焦っていた。いつものように駅の駐輪場に停めてあったバイクを飛ばして家に帰ってきたとき、拓海からの電話で、自分が乗ってきたバイクが赤の他人のものだということに気付いた。すぐにバイクを戻しに行くと、そこで待っていたのは長身の目つきの鋭い男で、それが宮村ジンだった。
 勢いに任せて逃げ帰ってきた俺を、次の朝学校で待っていたのはラブレター……じゃなくて、変な脅迫状。もちろん無視をしていつも通り帰宅すると、アパートの前にはヤクザと黒ベンツがワンセット。そして俺の部屋の前で約九時間も待っていたという宮村にそのまま連れ去られた。
 思えばここ一ヶ月の間に、かなり常識とはかけ離れた経験ばかりしている気がする。
 ほぼ初対面に近かった宮村に即行で犯されるわ、依岡兄弟のお家騒動に巻き込まれて別のヤクザに誘拐されるわ、監禁されるわ、銃は突きつけられるわ、男同士のセックスをデバガメするわ……思い出すのも嫌になる。
 でも不思議なことに、こんな渦中に巻き込んでくれた張本人の宮村を俺は好きで、しかも本気で拒めないし、嫌いにもなれない。
 命がけで守られて、ヤクザのくせにその辺のモデルなんか目じゃないくらい綺麗な顔に浮かべた真剣な表情にほだされてしまったのかもしれない。
 どんなことがあっても、やっぱり今、こんなに平和に過ごせているから、それはそれでいい。
 男同士なんてのも、なったらなったで、どうにかなる、って宮村や依岡兄弟を見てるとそう思えてくるし、ここの生活は一人暮らしなんかしてるよりは楽しい。
 リスクはめちゃくちゃ高いんだけど。
 それをカバーするために宮村がいると言ってもいい。
 ひたすら過去の回想に浸っていた俺は、いきなり帯をきつく締められてカエルみたいな悲鳴を上げた。
「ぐぇっ!」
「あぁ、ごめん。力加減がわからなくて思い切り締めすぎた。すぐ終わるから、もう少しだけじっとしてて」
「は、はひ……」
 両腕を肩の高さでストップさせたまま、帯が締め終わるのを待つ。手際がいいおかげで、腕が疲れる前に着付けは済んだ。
 改めて全身をチェックするように頭のてっぺんから足の先まで目を走らせた依岡弟は、うんと満足げに頷いてにこりと微笑んだ。
「うん、似合ってるよ、それ」
 自分の着付けに満足したわけじゃないんだ。つうか、そっちの方がまだマシだったよ。
「似合うわけねぇって……」
 女物の着物が似合う男って言われるのと、男として終わってるって言われるのと、何がどう違うのかを考えてみる。
 ほぼ同意義なんだろうな。
 自分で思って悲しくなってきた。
 体を見下ろすと、長すぎず短すぎない丁度いいサイズの新品で高価な着物が俺の体を包んでいた。
「あ、姿見出そうか。そこのクローゼットに入ってるから」
 見た目を気にしていると思い込んだのか、依岡弟は俺に今の自分の姿を見せるために余計な気まで遣う。本当は今すぐ全部脱いで焼却炉に突っ込んで燃やしたかった。
 頼む、無自覚にトドメを刺そうとしないでくれ。
 けど、キャスター付きの長細い鏡を出してきた依岡弟の善意100%の微笑みに、俺は何も言えなかった。
 文句なんて言ったら、すごく落ち込みそうなタイプだし。依岡弟の憂い顔は、女子の泣き顔よりよっぽど罪悪感を覚える。
 しかも落ち込んだままの弟を見たロクデナシだけど世界で一番弟を愛している兄が俺に対してどんな仕打ちをするか、考えただけでも恐ろしい。
 俺はまだ死にたくない。
 この年で殺されるよりは、恥を忍んで自らの醜態を晒した方がマシ……。
 ……なのか?
 むしろ、男として終わってるんだったら、死んだ方がいいような気も……。
「はい。どう、自分の姿」
「どう……と言われても」
 出来れば今すぐ死んでしまいたいくらい恥ずかしいのですが。
 鏡の中で苦笑いを浮かべる俺は、襟足まで伸びた髪もあって余計に男っぽく見えない。いつも男物の服着て、毎朝顔を洗って髪の毛を梳かすたびに見ている自分が、服装を変えるだけでここまで女っぽく見えるとは思わなかった。
 悲しいことに、俺自身、自分が女に見える。
「あ、ははははは……。はぁ……」
 認めたくなくても、黒い着物から見える首は女みたいに細いし、色も小麦色にしようとしてもなかなか焼けないせいで、男の肌にしては少し不健康気味だ。全体的に貧弱な体をしてるから、着物を着ると余計に着痩せして華奢に見える。
 泣いてもいいですか、本気で。
 兄貴、俺は今、男として生まれたことに疑問を抱かざるを得ないです。
「あとは式の時間まで自由にしてていいけど、帯が緩くなったり、着物が脱げたりしたらすぐに直すから」
 そう言ってにこりと笑うと、依岡弟は姿見を片付けてさっさと部屋を出て行った。
 帯が緩くなったりってのはまだ理解できるんだけど、何で脱げたりなんてこと言うんだ?
 ――――……。
「……ま、まさかな」
 いや、でも相手が宮村だとあり得なくもない。
 一瞬浮かんだ恐ろしい考えを必死で振り払う。考えてたら、本当にそうなるかもしれないからだ。
 考えてなくても、そうなる方が多いんだけど。
「つ、捕まる前に逃げればいいだけの話だし!」
 俺は宮村が奥の部屋から出てこないうちに、動きづらい着物の裾を持ち上げて逃げようとした。
「何してんだ、お前」
 突然後ろから声をかけられて、俺は思わず転びそうになった。慌てて振り返ると、そこには羽織袴姿の宮村がいた。
 うわっ……!
「―――……っ」
 俺はあまりのことに一瞬声が出なかった。
 宮村の和装した姿は、それはもうカッコよかった。俺は語彙が足りないから、気の利いた褒め言葉なんて浮かばないけど、とにかく綺麗でよく似合ってて、こいつには絶対に敵わない……って思わせるような威圧感すら覚える。
 まぁ、俺がこの男に敵った試しなんて、ないんだけどさ。
「すげぇ、かっこいー……」
 ……はっ。
 俺、今何言った?
 ボーっとしてて、無意識のうちに洩れた言葉が何だったのか、わからなかった。けど、宮村の面食らったような表情からすると、普段言わないようなことを口走ったらしい。
 と、宮村がニヤリと笑った。
 多分、相当まずいことを言ったに違いないと確信した。
 こういうときの宮村は、八割以上エロいことしか考えてねぇんだよーっ!
「惚れ直したか?」
「な、何言ってんだよ。バカじゃねぇの」
「いや、今素直に俺の格好に見蕩れてたんだろ」
「自惚れるなー」
「じゃあ、試してみるか」
 宮村は俺を抱き寄せると、着物の裾を割って、手を滑り込ませてきた。
 やーめーろー、何故そーなるーっ!
「ちょ、マジよせ! 俺一人じゃ着付け出来ねぇんだからッ」
「涼二にまた着せてもらえばいいだろ?」
「ふざけ……ん、な…ぁ……っ」
 ボクサーパンツの上から筋をなぞるように触られて、悔しいけど素直に体は反応する。
「って言うわりに、ココは結構その気になってるぞ」
「て、め…が、触る……ん、く……あぁ」
 るせー、誰だってそうされれば反応しちまうに決まってんだろうが!
「ん、の……セクハラエロオヤジッ」
 俺は渾身の力で宮村の体を突き飛ばし、不意を突かれてよろめいた隙に今度こそ逃げようとドアまでダッシュした。
 宮村は追いかけてこない。笑って俺を見るだけだ。
 またやられた……!
「オヤジはないだろ、オヤジは。俺はまだ二十代だぞ?」
「か、からかうのもいい加減にしろよ! 人が困るのわかっててそういうことする奴なんかサイテーだッ」
 一瞬でも、カッコいいとか素直に思った俺がバカだった。中身は節操なしのケダモノに変わりねぇじゃんかよ!
「からかってない。俺はお前に対して、いつだって本気だ」
「どこがだよ、ボケっ」
 本気でするほうがよっぽど性質悪いわっ。
 お前なんか、ハゲて不能になってのたれ死んでしまえばいいんだッ!
 俺は自分でわかるほど顔を真っ赤にして怒鳴った後、くつくつと笑う宮村を無視してそのまま部屋を飛び出した。
 女用の着物の裾を掴んで走る男子高校生……。間抜けというか、最早奇妙としか言いようがない。
 俺はつくづく、ここが離れでよかったと思った。母屋でヤクザのみなさんにこんな醜態は晒したくない。
 ……って、今はそうでも、結局見られるじゃん。
「もうヤだ、こんな家」
 そう呟いたあと、俺は半分涙目になりながら、中途半端な下半身をどうにかするために一目散にトイレに駆け込んだ。
 最悪な気分でトイレから出てきてみれば、締めてもらったばかりの帯がもう緩んでいて、依岡弟を呼びにいかなきゃいけない羽目になってしまった。
 襲名式まで、あと一時間半。
 俺にはどうしても、刑の執行猶予にしか思えなかった。


This continues in the next time.
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