[PR] SEO


最終話、夏の始まり


 あ〜……朝日が眩しい。
 色んなものが黄色く見える。
「――――っ、たぁ!」
 今のは別に蹴りを入れるときの気合でもなんでもなくて、動いた途端腰に激痛が走ったせいで上げた悲鳴。
 俺はただちょっと上体を起こしただけだってのに。
 すぐ隣で気障ったらしく腕枕をしながら眠る宮村を、殺気の籠もった視線で流し見る。
 昨日一回気を失った後、目が覚めたらバスルームで体を洗われていて、気が付いた途端に後ろから犯された。
 俺と同じように全裸で横たわる宮村の彫りの深い表情には、眠っていてもまるで今にも起きそうな感じがする。隙がないっていうのか?
 試しに額をつついてみる。
「……、………」
 宮村は一瞬眉を顰めただけで、すーすーと寝息を立てたまま。これで鼾を掻いていたら笑いものだけど、寝るときまでこうも綺麗だともう容姿やら雰囲気やらで宮村と争う気なんてなくなってくる。
 俺は最初っから争う気なんてないんだけど。
 昨日のことを思い出すと本当に本当に呪い殺してやりたくなるくらいムカつくし、恥ずかしくてこっちが死にそうなんだけど、コレには勝てないものがある。
 俺はとりあえず着替えようと身じろぎをして宮村を起こさないようにベッドから降りようとした。
 で、嫌なことに気が付いた。
「……っ、ぁ」
 ギシギシ悲鳴を上げる体の中に、まだ宮村が在ることに。思わずソレを締め付けて、疲れて動くことも億劫な体の内に熱が生まれる。
 テメー、何挿れたまま寝てんだよーッッ!
 とにかく、抜こう。じゃなきゃ何も出来ないし、危ない。
 俺が宮村との間に手を置いてゆっくり抜こうとしたとき、いきなり体を抱き寄せられてベッドに沈んだ。
「起きたのか、お前」
「っぁ……〜〜〜〜〜っ!」
 反動で内壁が擦られて声を上げた。不覚にも、宮村のすぐ前で。
「てめっ、離せこの……! 抜けッ」
「どこから、何を?」
 ニヤニヤとまたも意地悪く訊ねる宮村は、怒りで沸騰している俺の中に残っているものを揺すった。
「ぅ……ぁ、ぁっ……や、めろ」
「嫌だね」
 死ねーッ!!
 とっととソコからナニを抜けってんだッ。
 後ろから挿れられてるから、体ごと後ろを振り向けない。加えて抱き寄せられているから首から上しか後ろを向けない状態だった。
「――――、ぁ」
「っと……またやる気になっちまったな」
 中で明らかに硬くなった宮村のモノは、ドクドクと鼓動を内壁に響かせて、快楽を誘う。
「や、……んっ」
「中、蠢いてるぞ」
 知らずのうちに内壁が収縮を始めていて、もう「いつでもOKよん」状態になっていた。
 俺は決してそうなることを望んでいたわけじゃないのにーっ!
「せっかく反応してるわけだし、やらなきゃ損だよな」
「いや、損得全く関係ないから! 俺はヤダッ」
 宮村が俺の抗議を無視して俺のに手を伸ばしたその時。
『コンコン』
 部屋のドアが鳴って俺は「ひっ」と視線を向けた。別にびびる必要もないのに、中途半端にこんな状況だから、周りの動きに敏感になるのは仕方ない。
 これがコトの真っ最中だったら、そんな余裕もないんだけど。
「何だ」
 宮村は躊躇いもなく朝勃ちで少し硬くなっているモノに触って、ゆっくりと上下に擦る。
「っ……ぉい、や…だ」
「坊ちゃん、今日は仕事をしてもらわないと。会長から頂いた休みは昨日一日だけでしたでしょう。いつまでも休んでいては、組員に示しがつきませんよ」
 俺は好き勝手に体を蹂躙する宮村の手をぎゅぅぅっと抓った。宮村は「チッ」と舌打ちして、すぐに行く、と渋々返した。
 宮村の手が離れてホッとしたのも束の間、ドアの向こうからとんでもないことを言われた。
「それから理人さん、大林拓海さんが昨日からこちらに滞在することになったので、今理人さんの部屋を使っています。また後で朝食にお呼びしますので、その時に事情のご説明を」
「はぁ!?」
 聞いてないぞ、そんなことッ。
 つうか、昨日から? 昨日って俺一日中宮村の相手させられてたから、一回も部屋に戻ってないしっ。うわ、ナニしてたのかバレバレじゃんよッ!
 しかも、事情って何……?
 俺がぐるぐると考え込んでいると、さっきは全くその気はなかったくせに、さっさと中からモノを抜いて着替え始めた宮村が説明してくれた。
「お前が昨日気ぃ失ってるときに、あいつから電話が掛かってきたんだよ。お前大丈夫かってな。どんな面下げてそんなことが言えるんだかって思ったんだが、お前があいつから離れるつもりは毛頭ないみたいだし、こっちで預かった方が何かと都合がいいから、来いって言っておいたんだ」
「…………あー、そう」
 来い、ね。まぁこんな男に「もう少しマシな言い方はないのか」なんて、言うだけ無駄だってわかってるから何も言う気はないけど。
 何というか……。
 つまりそれは拓海を脅すっていうことか?
「心配するな。俺は里見みたいに、卑怯な真似はしない主義だ。あいつ以外には何もしない」
 その言葉に俺は顔を顰めた。
「今『あいつ以外』っつったな? 拓海に何かしたらいくらあんたでも許さねぇぞっ」
 ただでさえ、里見のことで苦渋の決断をさせられて、拓海だって辛い思いをしたのに、これ以上傷つけるわけにはいかない。
 俺が宮村を睨んでいると、宮村はスーツの下だけを着た上半身裸のままで俺に近づいてきた。
「そういうところが、妬けるんだよ。俺以外の奴にそういうカオされんのは、どうしようもなく腹が立つ」
「なっ……だ、だって普通、それくらい……」
 ズイッと顔をくっつきそうなくらい近づけて宮村は包み隠さず「嫉妬している」と俺に告げる。うろたえてしどろもどろになった俺に、宮村は続けて「安心しろ」と言った。
「あいつをそばに置くのには二つ理由がある。里見の件で色々と厄介な立場だってわかったからな、こっちで保護と監視をすることにしたんだ。それにあいつを利用されると、お前にとっても辛い、そうだろ?」
 俺はこくっと頷いた。
 宮村がそこまで考えてくれたのが純粋に嬉しかった。
 ダメだ。何でこう……カッコいいんだか。
 もう何も言えることがなくて、宮村が仕立てのいい黒のスーツを着込むところをただ見ていた。
 汗腺コントロールが出来ているのか、この夏場でも宮村や長谷川さんはネクタイを締めて上着も着る。サマースーツだとは思うけど、それでも「クールビズ」で世の中のほとんどのサラリーマンは半袖シャツだし、総理大臣だってネクタイを締めずにクールビズの推奨をしてるのに、堅苦しいし暑苦しい。
 まぁ、そういう硬派なところも、気障な中身と相まって似合ってるから、別にいいんだけど。
 組の頭、というよりは頭の切れる実業家のような面立ちの宮村は、きりっとした表情になって「仕事モード」に入っている。
 これなら、普段セクハラオヤジで変態の宮村でも、組員が「ついていきます!」と頭を下げるのもわかる気がする。
 ちょっと感心した俺に、部屋から出ようとした宮村が振り向いた。
「あいつが来たからといって、禁欲するつもりはさらさらないからな。あいつがここにいる間はこの部屋に来い、理人」
「んなっ……!」
 それだけ言うと、宮村はドアを開けて廊下で待っていた長谷川さんと母屋の方へ向かった。
 バタンと閉じたドアの内側で、俺は顔を真っ赤にして叫んだ。
「やっぱお前サイテーだッ!」
 朝食の席で、まだ少し落ち着かない拓海とまともに話が出来なかったことは言うまでもない。


This continues in the next time.
*ご意見・ご感想など*

≪BACK    Afterword≫


≪MENU≫