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9、想いに溺れて


 何か……ふわふわ揺れてるー……。
 何故かゆりかごに乗っているみたいに体が揺れている。けどそれはすぐにおさまって今度は、くぐもった声が聞こえた。
(……と、……人、…理人)
 何、呼ばれてる? 俺……。何もしてないのに、呼び出しかよ〜……。
「……び出し? 何言ってんだ、お前」
「……へぁ?」
 耳の中に入り込んできた確かな声に、俺はうっすら目を開けた。すると俺の顔を覗きこんでいる宮村とばっちり目が合ったけど、一瞬、何がどうなっているのかよくわからなくて何も反応できなかった。
「……、れ、ジン? 何して……拓海……」
 頭の中がぼーっとして自分でも何を言っているのかわからなかった。すると宮村の「こうやって寝惚けてるときだけか、名前で呼んでくれるのは……」と不機嫌そうにぼやいた。
「あいつは、藤次が送るってもう一台の方に乗っていっただろうが」
「そ……か…。ここ……って」
「俺の部屋、ベッドの上。……いい加減、目ぇ覚ませ」
「は……? んんっ、ふ」
 目なら覚めてる……と言おうとした俺は、いきなり唇を塞がれて、息をするのを忘れた。というか、出来なかった。
「ん、ぅぅっ……ふ、ぁ……んんっ」
 とっさに鼻呼吸が出来なくて、口を開いた途端に宮村の舌がするりと入り込んできた。そのまま、頭が痺れて溶けそうなくらい気持ちいいキスを仕掛けてくる。
 差し込まれた舌に、俺は無意識のうちに吸い付いて軽く噛んでは、送られる唾液を嚥下する。
「ん、く…っ、んぁ……ふ、んん……ぁっ」
 仕返しとばかりに歯列をなぞられ、舌を絡め取られて逆に宮村の口の中に誘い込まれると、同じようにきつく吸われて、噛まれる。それだけじゃなくて、宮村はまた俺の口の中で性感帯を的確に辿るから、キスはどんどん深くなった。
 舌先や口のいたるところから甘い快感の刺激が背筋を伝って下肢を煽る。
 それだけで昇り詰めてしまいそうなほどの激しく甘いキスは、一度覚醒した俺の脳みそをグラグラにして、一瞬また意識が遠のきそうになった。
「っ……は、ぁ……は……」
「何だ、今日はやけに素直だな。何も言わないなんて、それほど、許したとはいってもあいつに裏切られたことが辛かったのか」
「そ……じゃ、ない……。それは、もう平気……」
 単に、突然のことで対応が遅れて流されただけだ。
 けど、それ以上の言葉を紡ぐことが出来ずに、ただ荒い息で呼吸を繰り返す。
 また、体が熱くなる。
 俺はドクドクと早鐘を打つ心臓を力任せに手で押さえつけて、ゆっくり起き上がった。
 整理整頓された(というより、あまり使われていないだけなのかも)部屋は確かに宮村の部屋で、帰ってきたんだということに気が付いた。
「あ……、そか……車で帰ってきたんだっけ?」
「まだ寝惚けてんのか?」
 言いながら、顔も体も、体の内側も、全てに熱がじわりと広がっていく。薬が、まだ抜けてなかったんだろうか。
「それより……俺はまだ怒ってるんだ」
 急に宮村は声のトーンを下げた。熱に浮かされた頭じゃ、うつろにしか聞き取れなかったが、それでも宮村の静かな怒りを理解した。
「……拓海のこと? 俺のこともそうだけど、今回は迷惑かけてホントに、ごめん。あ、今回「も」か」
 寝起きだからなのか、冷静に考えてみれば、気楽に考えすぎていたのかもしれない。今回のことを。
 あんな風に、心配してくれて、組の仕事もあるのに、わざわざ法を犯してまで助けに来てくれた宮村のあの時の言葉に、すっかり許されていた気になっていたのかもしれないと思うと、自分のバカさ加減に自己嫌悪してしまう。
 謝ったって、許されないことは世の中にいくらでもある。同じ罪でも、人によっては、一生許されないことだってあるのに。
 どうすれば……。
「どうすれば……許してくれる?」
 謝った。キスを受け入れた。後は?
 仕事の手伝い? それとも家事全般? 何をすれば、宮村の怒りはおさまってくれるんだ?
 どうしたら、俺は今まで通り、宮村と一緒にいられるんだよ。
 でもその疑問は、俺の自己中心的な考えでしかないことにすぐ気付いた。それを決めるのも、俺の意思じゃなく宮村の意思だった。
 一緒に帰ってきて、車の中で寝る前は普段通りに笑っていた宮村が、鋭い目で俺を見据えている。
「どうしても許せないなら、捨てていいよ。今すぐにでも、出て行く支度する」
「バカ、そうじゃない」
 そういうこと言ってるんじゃない、と宮村は怒鳴った。じゃあ、何で……? と訊くと、不意に宮村は俺を抱きしめてきた。
「なっ……!」
「何でそう、お前は俺から離れていこうとする? 俺が言いたいのは、行動が軽率すぎるってことだ。今俺から離れても、俺の気持ちはお前だけに向いている。だったら、結局危険なのは変わらないんだよ」
「みや……、…ジン……」
「前は俺よりも格下のヤクザで、今回はただの元同級生でビジネスパートナーだったからどうにかなった。でも、宮村よりも上の奴らや、香港系のマフィアなんかにお前を攫われたら、無事に戻ってこれる保証はどこにもないんだ」
 弱音なんて死んでも吐きそうにない宮村が。
 三笠の件以降、二度と耳にすることもないだろうと思っていた負の意識を曝け出して。
 俺の目の前で、顔を歪めて「助けられる保証はない」と言った。
 いくら無敵で強引で、関東一帯の中でも指折りの勢力を持ち、二次団体・三次団体を含めれば都内一帯をシマとする、警察だって黙らせるような宮村だって、一人の人間だ。出来ないことはある。ただ、それを見せないだけで。
「お前、もっと理解しろよ……。俺が、どれだけお前に惚れているのか。どれだけ愛しているのか」
 出来るなら、鎖で繋いで片時も放したくないくらいだと、宮村は心が押しつぶされそうなほどの掠れた声で言った。
 泣いているわけじゃないのはわかる。けどたまに、こんな声を出す。それがますます俺の温度を上昇させた。……そんなこと、考えているときじゃないってわかっているのに。
「ジン……」
「藤次が、お前が怒って出て行ったあと様子を見に行って戻ってきたとき、携帯だけ残していなくなったって言われて、本当のことを言わなかったことを後悔した。けど、お前だって確証もないのにお前の友人がお前を裏切るかもしれないなんて言われたって気分が悪くなるだけだろう? 必要以上に悩まれても困るし、何もないならそれに越したことはないわけだから、穏便に済まそうと思っていたし、俺だって最後まで信じたくなかった」
 何もかも知っていて教えてくれなかったのは、他でもなく俺のことを考えていてくれたからだった。
 なのに俺は、むやみに外出するのは危険だとわかっていて、一人で拓海のところへのこのこと行ってしまった。挙句捕まって襲われて、間抜けにも程がある。呆れを通り越して恥ずかしい。
 それでも宮村は自分が悪いと、俺よりも先に謝ってくれた。
 そんな宮村だから、ますます俺は惹かれていく。
 どれだけ、この感情に溺れさせたら気が済むんだよ、この男は。
「……ジン」
 俺は名前を呼んで一度体を離す。
「何も、何もわかってなくて、本当にごめんなさい。それで里見に犯されそうになったんだから、それは自業自得だよ。俺がみんなに、ジンに謝ることはあっても、謝られる筋はない。……けど」
 こんなバカな俺でも、まだ、宮村の傍にいさせてくれる?
 俺はもっとずっと、一緒にいたいよ。
「体中、ジン以外の人間に触られて、感じちまった汚れた俺でも、まだあんたは抱いてくれるか?」
 俺は宮村の目をじっと見る。宮村は目を瞠り、俺を凝視したまま動かない。そんなことを訊かれるとは露ほども思わなかったからだろう。
 俺は単純だから。
 ここで宮村が嘘でも「Yes」と言ってくれれば、バカみたいに心も体も歓喜してしまう。嘘でも、言ってくれなきゃ、俺はこの不安を振り払って笑うことなんて出来ない。
 頼むから。
 そう、言って。
 どんな目で宮村を見ているのか、自分でもわかるくらい、心の底から懇願した。
「――――クソッ」
「え? ……んっ」
 宮村は苦虫を噛み潰したような表情になって舌打ちすると、もう一度俺を押し倒してきた。
「そうやって、俺を無自覚に誘うな」
「え?」
「俺は今、この瞬間だってお前の体に触れたいと思ってる。奥深くまで入り込んで、お前を淫らに啼かせて、俺のもんだって証を植え付けたい。……お前、色々呑まされて、体に障ると思ったから我慢しようと思ってたっていうのに」
 せっかくの抑制も台無しだ、と宮村は言って、深く口付ける。
 荒々しく口腔を蠢く舌に、全てを吸い取られてしまいそうなほどの感覚を覚えた。
 いっそ、その方がいい。
 宮村に何もかもを奪われて、溶けて、混ざり合えたら……二度と離れることもないし、ずっと一緒にいられる。バカみたいに不安になることもない。
 角度を変えられては何度も深く口付けられて、何も考えられなくなる。淡い快感が体を巡っては、熱を煽るように下肢に伝わってくる。
 唾液を注ぎ込まれ、貪るように舌を強く吸われ、歯列をなぞる宮村の舌の感覚に、心地よすぎて涙が出そうだった。
 やっと長いキスから解放されると、互いの舌の間に透明な糸を引き、俺の口の端から飲み込みきれなかった互いの混ざり合った唾液が零れた。
「は、ぁ…っ……ぅ……ぃよ、このまま……抱いて、くれ……」
 体が熱すぎて、どうにかなりそうだった。自分が何を言っているのかも、わからないくらいに。
 濃厚なキスに痺れてもつれる舌でかろうじて言うと、微かに宮村が意地の悪い笑みを浮かべた。


「あ、っ……はぁ、あ……な、で…そこ、ばっか……んん」
 俺は宮村の広いベッドの上で、しつこく、それはもうしつこく乳首だけを愛撫されていた。
 二人分の衣服はぐしゃぐしゃに丸まって床に落ちているがここからじゃ見えない。よく見えるのは、宮村の意地の悪い笑みだけだ。
 何度も思うけど、こういう顔をしているときの宮村は、過去の経験上、大抵ろくなことを考えていない。
 さっきから乳首だけのもどかしい刺激に我慢できなくなっていることもわかっているはずなのに、宮村はそこだけしか弄ってくれない。
 いくら自分から「抱いてくれ」なんて言っても、「好き勝手してくれ」とは誰も言ってない。
 俺は勃ち上がりかけていたモノに何とかして直接的な刺激が欲しくて、無意識に股を閉じて腿をこすり合わせようとした。
「何勝手に弄ってんだ? これからだってのに、自分だけ先にお楽しみなんてな」
「お、まえが……いつまで経っても触らな……ぃ、ひぁっ……や、だ…ぁっ」
 片方を歯で噛まれ、もう片方を指できつく摘まれて、一瞬電流のような快感が走った。
「ここだけでこんなに感じてるのに、十分だろ?」
「くっ……」
「今日はお仕置きだからな。簡単にイカせてもらえると思うなよ」
「っ、あ、ぅぅ」
 お仕置きって……こいつが言うと何されるのか想像もつかなくて怖すぎる。
 宮村は閉じていた俺の片足を手で倒して押さえると、間に体を割り込ませてから、陰茎の根元を少しきつめに握った。痛みが中途半端な刺激に溶かされていた頭をはっきりとさせる。それでも俺にできることはない。何せ宮村のでかい手が、俺の両手を頭の上でひとまとめにしてんだから。
 宮村は乳首への愛撫をやめて顔を近づけてくる。キスなんかしてやるか、と顔を背けると、宮村はそのまま耳たぶを舐めた。
「あ……や、めっ……ぁ、ぁっ」
 耳はもう既に性器のようなもので、性器以外の場所では俺が一番弱い性感帯だ。
 耳をはまれ、舌を耳の中に差し込まれる。鼓膜のすぐ近くでくちゅくちゅと湿った音が反響して、脳天に突き刺さる。余計な羞恥心も煽られて、俺は肩を竦ませながら首を動かしてなんとか逃げようとした。
「やっ、んんっ……ぅ…ん、ぅぁ……んっ」
 耳への愛撫から逃れた途端、深く口付けられる。肉厚の舌がするりと口腔に入り込んで、こっちの舌まで痺れそうなほど絡まれ、きつく吸われる。零れ落ちる唾液にも構わず、ただ宮村の濃厚なキスに溺れそうになった。
 このままじゃ……。
「ん……っ、ぁ、や……はな…て…っ」
「簡単にはイカせないっつったろうが」
「ゃ、だぁ……んぅぅ、ふ」
 宮村が根元を握り締めていて、キスだけでイキそうになった俺は快感を吐き出させてもらえなくて、息が詰まるほどの痛みがへその下あたりに渦巻いた。
 簡単にイカせないとは言うくせに、普段以上の快感を与える宮村が、本当に悪魔にしか見えない。
「ん、…ぁ、…も、無理……頼む、から……っ」
「駄目」
 必死の懇願も短い一言に一刀両断される。
 宮村は俺の両手を離すと、今度は俺の片足を自分の肩に乗せた。この体勢だと、先走りの液で濡れているモノや後ろの孔まで宮村に丸見えになる。
「おー、いい眺め」
「ふ、ざけ……っ」
「ふざけてなんかいない。俺はいつだって本気だ」
 嘘つけ。
 それだけははっきりきっぱり否定出来るぞ。
 普段俺の前じゃ九割方変態エロオヤジモードに入ってるだろうが!
「んの、………っ、……!」
 そう反論しようと思って口を開いた俺は、宮村が不意に股間に顔をうずめたのと同時に走った感覚に、声が詰まって喉からは空気しか出なかった。
 過去何度となくされては、泣きが入るほどの鋭い快感に喘がされていたこの行為が、俺は一番嫌いだった。
 気持ちよすぎて、訳がわからなくなる。
 しまいには、それさえももどかしくなって、普段の自分からじゃ想像出来ないくらい恥ずかしい科白で、宮村自身を欲しいと求めてしまうからだ。
 生暖かい口腔に含まれて、舌で先端の射精口を悪戯につつかれ、抉られる。その感覚に耐え切れなくて背を仰け反らせたが、宮村が片手でしっかりと根元を押さえているから、解放されることも叶わない。
「あああ―――っ、あぁ……あっ……」
 口を窄めて吸われると、射精感がいっそう強くなって苦しくなっていくばかりだ。勘弁してくれとばかりに、俺は宮村の頭に両手を置いて押しのけようとしたけど、先端に歯を押し当てられて軽く立てられ、上手く力が入らなかった。
「っ、ぃ、あ……ぁ、っあ……よ、せ……ぁっ」
 これ以上我慢を強いられたら、下腹部の痛みと快感で体が持たない。というか、先に意識が飛びそうだ。
「まだだ」
 顔を上げてそう言うと、今度は後ろの孔の方に顔を寄せ、俺が「待て」という前に躊躇いなく舌を突き入れてきた。
「うぁ、っ……あぁ、あ」
 この感覚にはどうも慣れない。フェラをされた時の悦楽に耐えられないのと同じで、縁をなぞられたり、中に舌が入り込んでほぐされると、自分でも滅多に見たり触ったりしない部分を舐められることへの羞恥と、その先にある行為に対する少しの不安と緊張、それ以上の快楽への欲求と妙な安らぎにぞくりと肌が粟立つ。宮村とするようになって、最初の頃に感じていた気持ちの悪さではなく、明らかな期待だ。
 そのうち頑なに閉じていた後孔は、唾液と尖らせた舌で何度も同じように繰り返し挿しこまれるうちに解れていき、俺はその微妙な刺激に物足りなさを感じていた。だから余計に嫌になる。
 けれど俺は、宮村とのセックスを拒めない。
 その理由も、とっくの昔に結論は出ていたからもう考えることもしない。
 宮村が舌を抜くと、今度は指が一本挿入ってきた。
「ひっ、ぁ……っ、ぁぁ……」
 最近気が付いたが、爪で内壁を傷つけないように、宮村はいつも最初だけ慎重になる。もしこれが毎回毎回乱暴で、付き合ってられないって本気で思える相手だったら、楽だった。
 こんな風に、宮村が与えてくれる快楽に溺れたりしなかった。
 途端、宮村は内壁の前立腺を試すように軽く押してきた。それはほんの一瞬のことだったのに、甘い痺れに全身が揺れた。
「ぁあっ、……ヤ、そ、こは……っ!」
「あぁ、悪い。触ったらまずいところだとは思わなくてな」
 わざと意味を取り違えて、宮村は一度指を抜くと、今度は二本に増やして挿れてくる。今度は前立腺のある場所を避けて内側をほぐすようにかき混ぜられ、むず痒く、望む場所に刺激を与えられなくて、根底から否定したいと思っているのに体が宮村を求める。
「腰が揺れているぞ? どうかしたか」
「……っ、どうも、してね……っ、あぁぁッ!」
 宮村のあからさまな挑発に乗ったら思うツボだとわかって、喉の奥まで出かかっていた本能のままの言葉を押し込め、理性で普段どおりに言い返そうとして、いきなり二本の指でグリッと前立腺を抉られて、思わず悲鳴を上げた。
「ぁ、ああ、っく……ぅあ……っ」
 快感を通り越して、最早執拗な前や後ろへの刺激は俺にとって苦痛にしかならない。それをする宮村も、表情は憎らしいくらい余裕で、ダラダラと蜜を溢れさせる俺のモノを手がべとべとになっていることも承知の上で未だに戒めたままだ。
 そして、悪魔の囁きを仕掛けてくる。
 俺がその誘惑を拒めない状態にしてからそうするあたり、宮村はやっぱり悪魔以上に意地の悪さを持つヤクザだった。
「ほら、どうして欲しいか言ってみろ」
「……っの、やろ……っ、ぁ、ンン」
 少しでも悪態をつこうとしても、快楽という名の苦痛に苛まれ、結局素直になるしかないのだと思い知らされる。
 毎回のことだけど、どんなに体が疼いても、すげぇ卑怯に攻め立ててくるコイツに、早々投げ出してやるもんか、と意地を張る。
 けど、今日はそんな余裕もなく、一回の刺激で息も絶え絶えに懇願してしまう。決して、望んでいることではなくても。
 やっぱり、薬のせいで耐性がなくなっているのかもしれない。
「ジン、のが……欲しい……っ」
「どこに、俺の何を欲しいのかちゃんと言ってもらわないとな。俺だって困るぞ」
 宮村は恨みがましく睨み上げる俺と目が合うと、にやりと笑った。
 どうにもならないだけじゃなくて、さらに羞恥心を煽るような言葉を要求してくる宮村に、俺の中で何かが沸き起こる。
 物凄く不健全で、ある意味間違った方向に、それは瞬時に膨らんだ。
 ――――こ、んのぉー……ッ!
 そうやって、余裕かましていられんのも今のうちだ!
 俺は上体を少し起こすと、宮村に自分からキスをした。いきなりのことに、宮村の力が一瞬弱くなったところを見逃さなかった。
 俺はそのまま逆に宮村を押し倒して、馬乗りになった。熱くそそり立つ宮村のモノが俺の尻の割れ目にぴたりとついて、あまりの熱さに身震いした。
「だ、れが……言って、やる…もんかっ」
 俺は宮村が上体を起こす前に、熱く猛った屹立を自分で孔に押し当てて、ゆっくり体重を落としていった。
「っ、ああ……っんんぅ……っく……!」
 まさか自分から挿れる日が来ようとは思ってもみなかった、と単純な感想を浮かべる前に、身を穿つものの大きさと熱さに小さく打ち震えた。
 全て入り込むその感覚が、いつもと違ってよりリアルに感じる。多分、自重で繋がりが深くなっているせいだ。
 内臓が下から圧迫されるような感じがしたけど、それも一瞬のことで、じわりじわりと媚薬のように宮村の熱が体の奥深くで俺の全てを侵そうとする。
 どうだ、と言ってやる余裕もなく。
 すかさず宮村が根元を握って、絶頂寸前だった俺をまた快楽地獄へと堕とした。
「くっ……いい度胸してんなぁ、理人。まぁ、俺の相手はそうでないと務まらないがな」
「ぁあっ……、ぃ加減……放せよ……もっ―――んぁあっ」
 宮村は、俺に何を言わせる余裕も与えてくれなくて、繋がった部分を軽くゆすった。
 せっかく主導権を握ったと思ったら、結局いいように扱われそうになっていることに気が付いた。
 いつだってこの男は臨機応変に対応しながらも、常に自らが主導権を握れるようにする。しかもそれを自然にやってのけるから、カッコいいし、同時にムカムカとくる。
 こういうときは特に、悔しい。
 というか、こういう時にまでそうやって無駄に頭を使うなよ。俺は普段から負けてるのに、さらに脳もグダグダで使い物にならなくなるんだからな。
「……丁度いい。理人、自分で動いて、俺をイカせたら、お前のも解放してやるよ」
「は……ぁ?」
「何もしないでいてやるって言ってるんだ。早く動け。生殺しにさせる気か」
 今の今まで俺を生殺しにしていたのはどこのどいつだこの野郎。
「……死、ね……、ヘンタイ」
 そうやって睨んでも宮村は笑みを貼り付けたままで、俺のモノを握りながら微動だにしない。
 悔しいけど、やっぱり宮村は何枚も上手だった。
 俺は宮村の綺麗に割れている腹筋の上に両手を当てて、膝をベッドにつけると、ゆっくり体を持ち上げた。中からずるりと抜けていく感覚に足に込めた力が抜けそうになったが、何とかギリギリまで引き抜く。
 そして一気に腰を落とすと、脳まで貫かれるような感覚が走った。びりびりと粘膜から血管を伝って、全身に甘く淫らな衝撃と痛みがめぐっていくみたいだ。
「ぁぁあ……っ」
 背中を反って無理矢理にその快感に耐えさせられる苦痛をやり過ごす。中で穿つ宮村を締め付けると、生理的に浮かんだ涙でぼやけた宮村の表情が少し歪んだ気がした。
「あっ…っ…ぁ、あっ、あ」
 全身がきつすぎる快感にブルブルと震え、内股は痙攣しっぱなし。そんな膝立ちするのもやっとな状態で、何度も何度も熱の楔に最奥を打ちつける。けどどうしても同じ動作の繰り返しになるだけで、これじゃあ、イカせることが出来ないと内心焦っていた。
 早く、この苦痛から解放されたいのに。
 それ以外に何が出来るのか、ぐじゃぐじゃの思考では考えられなかった。
「は……っ、く、……ぁぁ」
 目の前がチカチカして、意識が断続的に途切れてくる。それでも下腹部の痛みにすぐさま覚醒する。悪循環でもどかしいだけだった。
 ク、ソ……ッ! 本気で勘弁して……っ。
 閉じるだけの力もなく嬌声を上げ続ける口の端から、唾液が溢れて顎を伝い落ちた。
 もう一度体を持ち上げようとすると、宮村は上体を起こして俺の首筋をきつく吸った。その僅かな動きさえ、悶えるには十分な快感を孕んでいる。
「理人、お前……エロすぎだ。何もせずにいられるか」
「そ、させてんのは、誰……っ、ぁ!」
 最後まで言い終える前に、宮村は俺の腰を掴んで下から突き上げてきた。
 俺は決してエロい人間ではないし、セックスにだって童貞(つーか、処女?)並みに抵抗も羞恥心もある。アブノーマルな行為がそこまで好きというわけでもない。
 「エロすぎ」って言葉は確実に語弊が生じる。
「お前も動け。じゃないと、早くイケないぞ?」
「っ、ぁぁあっ……く、あっ、あ、あ」
 それを今この状況で否定しても、説得力が全く無いこともわかってるけど。  このエロオヤジ……ッ。
 心の中で無意味に悪態をついてみるけど、気持ちよすぎて本当にどうにかなりそうだった。
 俺は後ろに倒れそうになって、宮村の背中に手を回した。熱くて広いしなやかな背中は、何故かいつも安心させてくれる。
 それも今は安らぎなんて与えてくれなくて、ただひたすらに腰を振りながら早く解放されることだけを願った。
 だんだん抽挿が速くなって、宮村の表情もいつの間にか余裕がなくなっていた。
「お前、絶対俺以外の奴に、股開くなよ」
 荒い呼吸のまま、宮村は俺の耳元に口を寄せて低く囁き、耳朶を噛んだ。
 バカ野郎。誰も、そんなつもり毛頭ねぇよ。お前以外の人間に、こんなこと絶対許したくない。
 だから。
「ぁあっ、あ、…ンが、守って……んっ、くれ、だろ……っぁ」
 だったら、それでいい。
 俺が小さく呟くと、宮村は戒めを解いて、奥深くまで力強く穿った。
「っ、ああぁあ……ッ!」
 俺は中で膨らんだ宮村をきゅぅぅっと締め付けて、白濁とした飛沫を放った。同時に体の奥に熱いものが注ぎ込まれ、俺は全身の力がスゥーッと抜けていくのを感じた。
「う……ぁぁ……」
 達した余韻に全身が軽く痺れた様な感じで、指一本動かせない。
 俺は宮村を中に入れたまま、力が抜けるのと同じような感覚で意識を失った。
 最後に見えたのは、窓の向こうの、やけに明るい外の景色だった。
 真昼間から、こんなことしてる俺って……。


This continues in the next time.
*ご意見・ご感想など*

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