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4、すれ違う思惑


 俺や依岡兄や長谷川さん、むしろ組の人間が思っていた以上に、宮村の機嫌は直りが遅かった。
 理由は、あの芳香剤事件だ。
 あとから色んな組員に少しずつかいつまんで聞いた話によると、あの匂いの原因は毎日送りつけられる大量のバラの花らしい。
 誰から誰に送られてくるかまではわからなかった。ただそれを処理するのが最早日々の仕事として追加されてしまった組の人間は花の香りが体に染み付いて、見た目は凶悪なのに匂いがいいせいで、どことなくちぐはぐな感じになってしまった。
 あまりにおかしいため、外に出るとき(特に、シノギとか)はわざわざ風呂に入りなおす組員もいるくらいだ。
 そんな匂いに囲まれていても、違和感がないのは依岡兄弟と長谷川さんくらいのものだった。
 俺は何故か花の処分を手伝わされることもなく、せっせとダンボールの口をガムテープで貼って運ぶのを手伝おうとしても、組員から止められた。
 依岡弟は、たまに色とりどりのバラの花を手にとっては憂いを帯びた表情で溜め息を洩らしているのを何度か見た。誰が誰に対して送ってきて、何故それを宮村が怒ってるのかは知らないけど、可憐な花に罪はない。
 趣味が活け花で、花と向き合うことの多い依岡弟には、たまに同情する気持ちを覚えないこともない。
 問題の宮村はちょくちょく顔を見るようになったけど、その顔つきは他の人間がビビって近づけないほど険しい。既に宮村の不機嫌顔には慣れたはずの俺でさえ、一歩引いてしまうほどの迫力があった。
 いつもお気楽な依岡兄でさえ、自ら近寄ることもせず、とばっちりは受けたくないのか、俺にちょっかいを出すこともなくなった。
 それは俺にとって大いに助かることだから棚からぼた餅気分でいいんだけど、食事のときまで息が詰まるほどのおっかない顔を毎日毎日見せられたら、さすがにこっちの気が参る。
 俺は拓海の家に泊まることを言えないまま、気づけば一週間が過ぎ、十日が過ぎ、とうとう学期も終わって、夏休みに入ってしまった。
 拓海の家に泊まりに行くのは、拓海が家族と一緒に夏の海外旅行へ発つ前の七月下旬。すぐに言わないと、間に合わなくなる。
 俺だって、学生である以上は、与えられた休みを有意義に使って楽しみたい。宮村みたいに、何でイライラしているのかわからないような迷惑人間に構って無駄に時間を浪費するような真似は出来れば避けたかった。
 かといって、宮村の家に来てからは、宮村がアルバイトを禁止しているために、遊ぶのと課題と部活以外は何もやることがないんだけど。
 理由は至極簡単で、なるべく自分の手に届くところに俺を置いておきたいのと、外で変な人間……はっきりいうと同業者に、三笠と同じような目に合わされる可能性があるからだ。
 ま、俺から言わせれば、後者は建前で、九割方独占欲が原因なんだろうけどな。
 そんなわけで夏休みをダラダラと過ごしていた俺の携帯に、とうとう……というか、当たり前のように拓海から催促の電話がかかってきた。
『お前、ちゃんと宮村さんに言ったか?』
「いや……まだ。機嫌なかなか直ってくれねぇんだもん、アイツ。いつにもまして表情おっかなくて、俺どころか、組の人間でもなるべく近づきたくないって感じだし」
『俺ン家も旅行の日程が早まってさ、予定通りに泊まりに来ないと、時間ないぜ』
 俺と拓海で決めた日は、明後日から三日間で、その間にテーマパークやプールに遊びに行く予定だった。それに合わせて準備も整っていて、あとは宮村に許可をもらえれば今すぐにでも拓海の家に行ける。
 三日間っていうのも、宮村には言わなきゃいけないんだけど、果たして聞く耳を持ってくれるかどうか……。
 原因を問いただせば、程度によっては懐柔することもできるかもしれないけど。
「まったくなぁ……困った組長だ」
『違いねぇな』
 拓海は苦笑してるけど、俺にとっちゃ冗談にならないくらいアイツの不機嫌度はMAXだ。
 触らぬ神(ジン)に祟りなし。
 上手いこと言った。
 でも笑い事じゃなく、まさにそんな状況。
 それでも俺の少ない夏休みを、宮村の機嫌の悪さで潰されちゃたまったもんじゃない。
「わかった。今日言いに行くよ。どうせ家にいるんだし、また後で電話するから」
『オーケー。ちゃんと許可貰ってこいよ。もしダメなら、こっそり抜け出して来い。別に相手がお前の友達だってわかったら、宮村さんも納得してくれんだろ』
 そうやって楽に考えるのはいいんだけどさ、世の中上手くいかないこともあるわけだよ。いくら友達だって言ったって、あのクソバカ迷惑野郎は快諾するような玉じゃない。
「……そうだと、いいんだけど」
 俺は溜め息混じりに電話を切って、ふと窓の外を見た。
 純日本家屋の母屋と、その周りに広がる庭園がそこからはよく見えた。
 宮村が組長になってからは、離れよりも仕事部屋として使っている部屋がある母屋に入り浸ることが多くなった。寝るときはこっちに戻ってくるけど、俺が寝てから……っていうのも最近はしょっちゅうだ。
 そういえば、全然宮村に抱かれてない。
 そりゃ、不機嫌さMAXの人間に押し倒されて無事でいられる保証はどこにもないから、そっちの方が好都合なんだけど。
 前は鬱陶しいくらい俺と一緒にいた宮村が急にいなくなったら、それはそれで淋しい。
 …………。
「って、俺は欲求不満な妻かよ」
 旦那が仕事一筋でさ、放っとかれて、ついには浮気してドロドロの昼ドラ。
 浮気するつもりはないけど、はっきり言って逃げたくもなるぞ、コレは。
 つまんねぇな……。
 俺は仕事中とわかっていても、すぐに済む用事だし、と思うことにして母屋に向かった。
 普段は襖で仕切られている宴会場に使われた広間とトイレの間にある廊下に入り、表からは見えないところに宮村の仕事部屋があった。そこだけはドアも洋式で、どこかの執務室みたいな造りになっているらしいけど、実際入るのは今日が初めてだ。
 周りに人がいないのを確かめてから、そっと耳をドアにつけると、中から宮村の声と、それに答える長谷川さんの声が聞こえた。
 鬼気迫る表情には仕事の方もちゃんとやっていけているのかと心配はしてたけど、どうやらただの思い過ごしだったらしい。
 俺は二人の話が途切れるのを待って、「人」を三回手のひらに指で書いて飲むと、ドアをノックした。
 って、人の字を飲むのは、人前で緊張したときだろうが、俺。
 気づいたときには、すでに部屋の中に入った後で、ノリツッコミも出来なかった。
「何だ、理人」
 俺の真正面で机の向こうにある「いかにも社長だが」みたいな椅子に座る宮村は、出会った時のようなどこか軟派に見える印象も見事に消え失せ、堂々とした、人の上に立って働く男の威厳ある態度を見せていた。
 俺は一瞬見惚れ、そして意味もなく顔を赤くした後で一回咳払いをする羽目になった。
「夏カゼでも引いたか。病院なら、今は涼一が空いてると思うから連れてってもらえ。何なら、主治医を往診させてもいい」
 気遣ってくれるのはありがたいし嬉しいんだけど、そんな怖い声で言われると「いいよ、自分で行く」って言わされるだろうが。
 無言の威圧っていうのが、得意になったのか、こいつは。
 俺はひくつく喉で何とか声を絞り出す。
「そうじゃなくて……。ちょっと許可を貰いにきたんだけど。俺さ、休みに入ると拓海ン家と、俺ン家で交互に泊まって遊んだりしてんだけど。そんで、今回も拓海ン家に泊まりに行きたい。さすがに拓海をこっちに来させるわけには行かないだろ? 俺も三日くらいですぐに戻ってくるから……」
 一度言うのを止めたら、宮村の反応が怖くて言わなきゃいけないことも言えなくなりそうだったから、早口に言った。
 すると宮村は驚くように目を瞠った。そして何故か知らないけど長谷川さんも同じ顔で俺を見ていた。
 そして静かに、宮村は言った。
「駄目――」
「何で」
 俺は「だ」と言い終わる前に即訊き返す。
 宮村はその態度が気に入らなかったのか、顔を顰めて言った。
「何でもだ。以前から少しずつ仕事をしていたとはいえ、今は完全に仕事を引き継いでから日が浅いせいで色々立て込んでる。お前は自分の立場がわかってんのか? 俺の隣にいるってことは、命だって狙われやすい。そんなんでのこのこ外を出歩いてみろ。次はこの前みたいに助けられるとは限らない」
「……そ、うだけど」
 俺はその言葉にぐうの音も出なかった。
 確かに、宮村の言っていることは正しい。俺が宮村の傍にいることは自分でそうだと決めたから、後悔はしてない。そして宮村の言葉も、今日は多少棘があるけど、俺を心配してくれているからこその忠告だと思う。
 だから、仕方ない、と諦めようと思った。
 そして「わかった」と口を開きかけた俺は、宮村が発した言葉に一瞬声が出なくなった。
「特に、大林拓海には近づくな」
 何で。
 一瞬、そう思って返そうとしたけど、やめた。考え直したからだ。
 それはさ、俺の心配じゃなくて、嫉妬してる恋人が別の男に近づくなって彼女に言ってるようにしか聞こえないんですけど。
 俺はキッと宮村を睨んで反論した。
「何だよソレ、拓海限定って。拓海のことは何度もあんたに弁解させられたし、それを聞いていなかったとも言わせない。今更くだらないこと言ってんじゃねぇよ。大人のくせに」
「俺が言ってるのはそういうことじゃ……」
「じゃあ何だってンだよ。悪いけど、俺には嫉妬した恋人の台詞にしか聞こえないね。ったく、今のあんたは不機嫌気味だから、機嫌が直ったら話そうと思ったけど、そういう腹づもりなら、いつ話したってどうせ変わらないよな。いいよ、わざわざ申し立てる必要もなかった。勝手に行くから」
「理人さん」
 さすがに見かねたのか、長谷川さんが窘めるように俺を呼んだけど、もう俺は聞いてなかった。
 俺は捕まらないうちにさっさと部屋から飛び出すと、離れまで全速力で戻った。途中組員にぶつかって睨まれた気がしたけど、そんなことを気にしている余裕もなかった。
 バタンと勢いよくドアを閉めて、あがった息を整えながら俺は溜め息を洩らす。
 何でこうなんだよ、あの男は。
 拓海の事は、三笠の誘拐事件のあとで色々とごたついていたのが収まってから散々問いただされた。
 同性相手に恋人を持ったことなんてなかったから、まさか友達まで関係を疑われるとは考えてもいなかったけど、それでも最後には「わかった」って言ってくれたから、それで終わったと思っていた。
 確かに、宮村は機嫌の悪さで仕事以外だと冷静さを欠いているのかもしれない。何が原因なのか、あまりわかんねぇけど。でも、宮村の機嫌が悪くなったのは花が贈られるようになってからだってことは間違いない。
 今も変わらずに贈られてくる花を捨てろと言ったのは多分宮村だ。だったら俺達にそれをぶつけるんじゃなくて、贈ってきた相手に言えばいいのに。
 もしかしたら、俺の知らない他の組の誰かに求婚されているのかも。
 俺だって、嫉妬しないわけじゃない。そう思ったら、宮村と同じように俺も意地になった。
 こうなったら、宮村が頭を冷やすまで拓海のところに居続けてやる。拓海が旅行に行くギリギリまで、泊めてもらおう。
 前までは拓海と同じように一人暮らししていたから、必要最低限の家事は出来るし、もしかしたら、拓海が戻ってくるまで部屋を使わせてもらえるかもしれない。
「……よし」
 俺は箪笥の横に用意しておいたボストンバッグを抱えて、財布をポケットに入れる。携帯を持っていくかは迷ったけど、拓海には直接会って早めに泊まらせてもらえるように言えばいいし、宮村だって、本気で連れ戻そうと思ったら拓海のところまで来るはず。だから机の上に置いて行くことにした。
 それで大人しく帰るつもりはないけど。
 とにかく、宮村がいつも通りに戻るまで、俺は帰るつもりはなかった。
 そっと部屋から廊下に出ると、ドアのノブに、いつも役に立ってない「勉強中。邪魔するな」のプレートをかけておく。本当に勉強中でも、依岡兄は「教えてやる」といって邪魔するためだけにずかずか入ってくるし、宮村も構わずに入ってきて(主に体で)邪魔をするだけだった。
 入ってこないのは依岡弟とか長谷川さんくらいだけど、二人とも俺の部屋には滅多に来ない。
 こんなことしたって無駄とは思っても、何かしないと落ち着かないしな。
 そう思いながら足音を立てないように廊下を歩き、離れからでも外出できるように造ってある小さな裏口へ行った。マットの上に置いてある履き古したボロボロの運動靴をつっかける。
 そっとドアを開けると、数メートル先には表の門とは違って小さな戸が見える。辺りを見回して、自分が誰もいないのを確認すると素早く戸のところまで走り、また音を立てないように外に出た。
 おっし、ここまでは順調。あとは途中で捕まらないように駅まで行くだけだ。
 俺は普段組員や依岡兄弟の買出しで使う道を避け、遠回りで駅へ向かった。幸い、誰とも会うこともなく、後ろから追いかけてくる姿も見なかった。


 理人が部屋から逃げるように飛び出していったのを、宮村は追いかけることをしなかった。今の状況で理人が何かを聞いてくれるとは思わなかったのだろう。
 長谷川は深く溜め息をついて「誤解されてしまいましたね」と、非難するように宮村に言った。
「今弁解したところで、理人が大林拓海に近づくなということを納得してくれるとは思わない。まだ事実関係もはっきりしてないんだからな。……そうらしい、というだけで」
 宮村は引き出しの中から書類を取り出して目を走らせる。何度もそうしたように。
 そこには、拓海の顔写真や経歴、家族構成、そして大林家の内情などが事細かに記されていた。いつか、理人をそうして調べたように、拓海のことも宮村は調べていたのだ。
 それによると、拓海の父は中規模のサービス企業の経営をしており、最近になって一時期、経営に行き詰ったこともあったらしい。原因は、不況の煽りで赤字が出始めたことによる融資の契約更新の拒否、となっている。現在は融資も再契約されているが、その辺の事情はまだ調査中だ。
 気になったのは、その融資先だった。
「確かに、大林拓海の父が融資先にしていたのは坊ちゃんの友人、里見康孝が経営している会社の一つではありますが……考えすぎではないでしょうか」
 長谷川の手元にも同じ書類がある。改めて確認しながら、長谷川は宮村に言った。
 里見は確かに、悪徳金融と言われるような仕事にも足を突っ込んでいるが、ヤクザの介入がしやすい不動産業もあれば、裏が一切ないアパレル関連の企業経営もしている。中小企業に融資をするのもそのうちの一つだ。公式のホームページでの紹介や実際の対応についてもなんら遜色はなく、誰もが好感を抱くほどの経営姿勢で、表も裏も二重人格かと疑いたくなるような仕事ぶりだ。
「手ぇ出すなってあんだけ言っておいても、あいつは平気で人のモンを奪っていく。昔から、敵の多い奴ではあったけどな」
 さすがに、自分まで敵に回すほど馬鹿な男ではないと踏んでいたが、その考えは甘かったのだ。
 最近、バラの花束が大量に毎日贈られているのは、他でもない理人で、贈り主はもちろん里見。届くようになったのは、襲名式と里見が来ていた宴会の後からだった。
 そして贈られてくるたびに手紙が添えられており、読むのも嫌になるほど歯の浮く台詞の羅列と食事の誘いと一緒に、高級レストランの招待券が入っていた。
 ここ最近、宮村の機嫌が悪い一番の原因はそれだったのだ。
「花束は理人さんに直接触らせていませんし、手紙も開けずに処分しています。それ以外は何もしてこないのであれば、いくら坊ちゃんでも考えすぎです。理人さんが可哀想ですよ」
「里見が、それで引き下がるとは思えない。アイツは一度手に入れたいと思ったものなら何でもモノにする。物だろうが、動物だろうが、他人の恋人だろうが構うことはしない。それに……悪い予感がするんだよ、ずっとな」
 宮村は額に手を当て、眉間に皺を寄せた。
 どういうわけか、宮村の「悪い予感」は必ず的中する。それで剛が組長の時も幾度か助けられたこともあり、宮村の予感は組員の間では結構アテにもされていた。
 今回も、それだった。
 長谷川は息をつき、坊ちゃんの心配もわかりますが、と口を開く。
「いくら恋人でも、自分の大切な友人に他意があると疑われたら、怒ります。坊ちゃんの場合は理人さんのことも考えて、あえて理由は言わなかったという部分もあるでしょうが……理由もなく、引き離されるのは誰だって辛いですよ。坊ちゃんも、理由なく理人さんから引き離されれば、嫌にもなるでしょう」
 それと同じです、と長谷川は昔のように宮村に言った。教育係として宮村家にいた時間が他の組員よりも長いせいか、昔の癖はいつになっても直らない。
 里見と拓海との繋がりはまだ報告待ちで、はっきりとしたことは言えなかったと言った方がいいのかもしれない。宮村もそれがわかるから、ただの考えすぎであって欲しいと思っている。
 事情が把握し切れていない今、理人が迂闊に拓海に近づくことは避けたほうがいい。それだけしか、宮村には言えることがなかった。
 そう。拓海が理人を、自分達を裏切る可能性がある、などとは言えなかったのだ。
 何の証拠もないまま、他人を疑うことは道理に反する。それが自分の友人なら信じたくはないだろうし、証拠がなければ普通は信じないものだ。
 いくら悪い考えを払拭しようと思っても、自分自身に嘘はつけない。潔白が証明されれば、安心して理人との付き合いを許せると、宮村は本格的に調査を始めたのだ。
 理人自身のためであると言ってもいい。
 だが、それを言っても理人が簡単に納得してくれるとは、この調査の理由を知っている長谷川も思っていないだろう。
 全てが丸く収まってくれるように祈るだけだった。
「仕方ない……藤次、俺は連絡を待つ。お前は理人の様子を見てきてくれないか」
「わかりました」
「わかっているとは思うが、余計なことは言うなよ。あいつを傷つけるわけにはいかない」
「ええ」
 長谷川は宮村に一礼をして部屋を出て行った。
 宮村は苦々しい表情を浮かべながら、拓海の調査報告書にもう一度目を落とした。
 普通の高校生となんら変わりない経歴。理人とは出会ってから一年半だが、それでも高校時代の付き合いというものは、この先一生続いていくものになる。決して認めているというわけではないが、里見がいい例だ。
 それを知っている宮村は、理人から拓海を遠ざける真似はしたくなかったし、またそれを切望しているわけでもない。
 ただ理人を守りたい。それだけなのに、一生の友を失わせることになるなんて、重すぎる対価だと思わずにいられない。
 悪い知らせだけは寄越すなよ、という目で、宮村はひたすら机の上の受話器を睨んでいた。


This continues in the next time.
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