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-After-


(……久々だなぁ、昔の夢見るの)
 カーテンの隙間から差す陽光の眩しさに、夢から覚めた涼一は顔を顰めて腕で目元を覆った。
 あれから九年が経ち、あの頃にはなかったものもたくさん増えた。
 ふと首を横に向けると、すやすやと小さく寝息を立てて眠る涼二の気持ちよさそうな寝顔が間近に見える。
(そういや、結局両想いになったのってここに来て二年くらい経ってから、なんだよな)
 初めて涼二と結ばれたとき、生きていてよかったとあれほどまでに思えたのは、やはり宮村の命の重さを知る者のおかげと言えるだろう。
 するすると腹部を辿ると、今でも刺し傷の痕が残っている部分は他のところと感触が違い、ほんの少しだけ膨らんでいる。涼二は行為の最中、その傷に触れるたびに泣きそうな顔をした。
 それはそれで大変そそられるので、構わないのだが、羞恥ではなく本当に胸を痛めているというのだから素直に欲情することも出来ない。
 おそらく、この先何年、何十年と、この傷は消えずに涼一の体に残されるだろう。そして涼二はそれに触れるたび、悲しげな表情をし、涼一は命の重さも知らないまま生きてきた過去を思い出すだろう。
 けれどそれをなかったことにすることは出来ない。
 それならば、その過去以上の未来を後悔しないように生き、悲しい記憶以上の楽しい思い出を作っていけばいい。
 最も大切なものを最期まで守りきれるように精一杯生きていけばいいのだ、と。
 涼一は宮村に命の重みを教えられたあの日から、そう心に決めていた。
「…………」
 何も考えず、ただ単に起きる気がなくて、じっと白い天井を見つめていると、突然その天井が『ドンッ』と音を立てた。
(あぁ……りっくん、夏休み、なんだっけ)
 夏前からジンの恋人として同棲している東理人のいじめがいのある反応を思い出し、自然と意地の悪い笑みが口元に浮かんできた。
 先日、ジンの仕事相手の元同級生が理人を誘拐した一件が原因で、今まで理人に宛がわれていた部屋は理人の友人の大林拓海が夏休みの間使うことになり、今では仕方なくジンの部屋に移った理人は毎晩のように――以前もあまり変わらないのだが――抱かれる羽目になっているらしい。
 涼一から言わせてみれば、一度裏切った相手に対して何もそこまで手をかけてやる必要性などどこにもないのだが、わかりづらくも確実に理人至上主義のジンにとっては、理人が絶対に離れないとわかっているからこその特別措置なのだろう。
 そこまで口出しできるほど偉い身分でもないため、渋々ながらも少しずつ拓海がこの屋敷の中にいることも慣れ始めている。
『ドンッ……ドスン』
 天井がまたもやくぐもった音を鳴らす。
 涼二が身じろいだことに気付いてまた目を向けると、明らかに騒音によって起こされてしまったらしい涼二がぼんやりと訊ねてくる。
「…さん……上で、何かあったの……?」
「大丈夫だよ、いつものことだから。朝ご飯まで寝てな。文句言ってくる」
(盛るのは勝手だけど、朝っぱらから煩いな……!)
 何より涼二の安眠妨害をされたことが一番癪に障った涼一は、涼二の額にキスを落としてからベッドを降りた。
 下着とジーンズだけを穿くと、上を着る時間ももったいないとばかりに、シャツを手に持って部屋を出る。
 そして数分後。
 傍迷惑な理人の叫び声が、真夏の早朝の宮村家に轟いたのだった。


This continues in the next time.
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